バイオマスエネルギーという聞き慣れない言葉に初めて触れたのは、昨年晩秋。福井県今立町の環境学習施設「八ツ杉千年の森」で行われた「森のエネルギー新時代」というセミナー。木質燃料のペレットストーブといろりのあるホールで「21世紀日本の森林エネルギー戦略プログラム」と題して講演したのが、今日の岐阜県立森林文化アカデミー学長、熊崎実筑波大名誉教授だった。

 熊崎さんは恵那郡付知町出身。三重大農学部を出て農林省森林科学研究所などに勤めた後、1989(平成元)年から筑波大教授となり、99年春に定年退官した。「久々に岐阜に帰ってみると、山は荒れている。2、30年前に植えたまま手入れされてないから大雨で山が抜ける」。話は、欧米でいかにバイオマス利用が普及しているかに及んだ。
 「木材は生きたバイオマス。化石資源は死んだバイオマス。化石燃料が使えないのなら、もともと人類が重要な燃料としてきた生物燃料に帰るのは当然。バイオマス発電で出るCO2は、木が成長する間に貯めこんだのを返しているだけで、CO2に関してはニュートラル。森という地域資源を活用した循環型社会の実現に期待が出来る」
 米国はオイルショック後の70年代から木質バイオマス発電を始めた。欧州でも近年、温暖化対策でとみに盛ん。「21世紀はバイオマスの時代」ともいわれている。
 「日本でも、未利用の木質資源をベースに小規模・分散型の熱電併給が普及する可能性は極めて大きい」と、熊崎さん。
 「当面有望なのは木質ペレット燃料による石油暖房の代替。中山間地の公共施設や施設園芸、農産加工などに熱電併給ができるし、計画的間伐と一体化すれば熱より電力の販売を重視したやや規模の大きい発電所もできる。建築廃材などあまりクリーンでない木質系廃棄物の場合、大型火力発電所で化石燃料と混焼するのは難しくない」

 今立町で初めてお会いした熊崎さんに、今春、森林文化アカデミーで再会した。早速、バイオマスの話の続きを聞いた。
 「欧州は熱供給中心だが、発電だけなら蒸気タービンよりガス化した方が効率はいい。ただ、天然ガスと違ってバイオマスは浄化が必要。その浄化とガス化の技術は米国でもまだ完成していない。ガス化の長い経験があるデンマークでは成功しているが、多分に職人的で難しいものがある。そこをどうするかが問題」
 ともあれ、森林資源は日本、特に岐阜は豊富。難しい技術も職人技も、日本人が劣るわけでもなさそう。まだ、始まっていないだけなのだ。日本のバイオマス発電時代が県立森林文化アカデミーで開かれるとしたら、こんな痛快なことはない。
 文・永井豪

【 メモ 】
 木質ペレット 米国で開発された、製材の木くずなどを固めた成形燃料。直径7ミリ、長さ15ミリほどの円柱状。取り扱いやすく、手も汚れない。米国で約35万世帯が暖房に愛用。スイッチを入れるだけなので薪ストーブより扱いが簡単。熱効率がよく快適で、給湯もできる。スウェーデンが米国に次ぐ生産国。国内では現在、ペレットストーブは両国から輸入。ペレット生産は2例だけだが、今後は国内でも有力な自然エネルギーとして期待が高まっている。
【 取材ノート 】
 福井県今立町は越前和紙の古里。紙の神をまつる岡太(もと)神社があり、美濃紙と同様、正倉院に献上した和紙が残る。千年前から今を見つめ、千年先の未来に続く町づくりビジョンに基づいて町森林学習センター「エコ・ヴィレッジ八ツ杉千年の森」が開設された。太陽光発電や木炭自動車「千年の森号」、ペレットストーブがあり、木炭による合併浄化槽高度水処理実験も行われていた。歴史をふまえて未来を築こうという確かさに感じ入った。
トピックス
化石燃料から生物燃料 社会型循環実現